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私の好きな街

移ろいのある街-京都-

堀木エリ子氏

Eriko Horiki
和紙デザイナー/Japanese paper designer

京都府生まれ。高校卒業後、4年間の銀行員生活を経て、和紙商品開発会社へ転職。1987年にSHIMUSを設立。2000年に堀木エリ子&アソシエイツを設立。国内外の商業施設、公共施設、ホテルなど多数の建築空間で作品を展開。「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマにオリジナル和紙を制作し、和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。日本建築美術工芸協会賞、インテリアプランニング国土交通大臣賞、日本現代藝術奨励賞、京都創造者賞/アート・文化部門など多数受賞。
Webサイト: http://www.eriko-horiki.com/

国内はもとより、世界中で活躍されている堀木エリ子氏は、京都生まれ大阪育ちの和紙デザイナー。近年は、京都府の参与として景観に関するアドバイスを行うほか、有名チョコレートブランドのデザイン監修などにも関わられ、和紙デザイナーという職能を越えて様々な分野で活躍されています。
今回デザインオンレスポンス協会は、堀木エリ子氏にとって「魅力的な街とは、一体どんなところなのか」「魅力的な街をつくるために大切なこと」について、和紙デザイナーの視点からお話しいただきました。

「移ろいを感じる」そういう街に魅力がある

京都の夏の風物詩 「祇園祭」

仕事柄、世界各国を見て回る機会があるのですが、好きな街を聞かれると「やっぱり京都っていいな」という結論に至ります。どんなところがいいか?と聞かれると、ひとことで言うなら「移ろい」を感じるところです。それは、四季の移ろいであったり、昼夜の光の移ろいであったり、界隈を歩き回ることで変わる風景の移ろいであったり、自分が制作している和紙の世界にも通じる「移ろい」が京都の街中にたくさんある。だから、私は京都という街に惹かれるのだと思います。
また、京都では人々の営みからも「移ろい」が感じられます。例えば、毎年6月ごろになると街の中でどこからともなく祇園祭のコンチキチンを練習する音が聞こえてきます。これが聞こえてくると、「ああ、今年ももうすぐ夏がやってくる」と感じます。5月の葵祭にも、11月の時代祭りにも、同じようなことが言えますね。また、細い路地を入ると昔ながらの小さな商店があったり、その角を曲がると和服で打ち水をしている人がいたりしますが、こうした人々の営みが、京都の街をつくっているとも感じます。

人の知恵や祈りが形づくる街の景観

京都の町屋をよく観察すると、長い歴史で培われてきた人々の知恵が街や建物を形づくり、美しい景観になっているものがいくつもあります。元来は犬や猫の放尿で壁が汚れたり、馬が家の塀を蹴ってしまうことを防ぐ目的でつくられた「犬矢来」。また、元々は商店が商品を陳列して売るための棚としてつくられ、昭和の中頃になると、そこに腰掛けて夕涼みをしたり、ご近所さんと将棋や囲碁を楽しむ社交の場になる「バッタリ床几」。さらに、二階建てが禁止されていた江戸時代、少ない面積に場所を確保するため屋根裏や中二階の物置を作りますが、採光と通風のために窓が必要になります。しかし商人が武士を見下ろすことが憚られたため、外側からは内側は見えないようになっている「虫籠窓」など、街中に機能と美しさを併せもった色々な仕掛けがあります。その仕掛けが生まれた背景を知ると、当時の人の営みや祈りを感じて心がほっこりしますね。こんなところからも、やっぱり京都は素敵な街だなと思うんです。町屋の間口は狭いですが奥行きを感じますし、この先に何かあるんだろうと思わせます。また、路地を抜けていくワクワク感。この路地の魅力というのは、実はパリにもあって、魅力的な街に共通する要素なのだと思います。

京都の町屋 バッタリ床几 ※①

犬矢来 ※②

虫籠窓 ※②

品格と品性、そしてちょっとした遊びゴコロ

私は今、京都府の参与という立場で、街の景観問題にも関わっていますが、そういう視点からお話をすると、バブルの頃によく建てられたような静かなところで大声を出すような建物や、街の中で裸で踊っているような建物というのは、やっぱり周辺との調和や人の日常的な営みを考えると困りますよね。そういう点から、街づくりで私が重要だと思っているのが「品格と品性」です。ただ、それだけでは堅苦しくつまらない。人間もそうですが、品格や品性を備えながら、ちょっとだけ「品行」が悪いと、面白かったり魅力的だったり、所謂、ちょっとした“遊びゴコロ”ですが、私はこれが魅力的な街づくりのポイントになるのではないかと思っています。

「美しい」と感じる世界共通の感性

現在、私は他国からもお仕事をいただいています。文化的背景や習慣が全く異なる人々が、なぜ私の制作する和紙作品に魅力を感じてくれるのか。そこには「移ろい」という言葉に通じる、世界共通の感性があるのではないかと思っています。
その感性の正体は、「人間の作為が100パーセントではない」。ということではないかと思います。美の感性の背後には、人間の作為に、自然の力によってもたらされる”偶然性”が三割くらい加わると、人の力だけでは絶対につくり出せないような素晴らしいものが生まれ、人の根源的な感性に訴えかける美しさが宿るのではないかと考えています。このことは、「まちづくり」や「建築デザイン」にも同じことが言えるのではないでしょうか。ただ、この三割をどうコントロールするか、作家や建築家としてはそこが難しいところですが(笑)。

自然に沿うということが居心地の良さに繋がる

和紙は、人間の作為と自然の力が生み出す偶発性を含んだ素材です。人が作為的に取り組むことに、飛び散ったり、滲んだりする自然の偶発性が加わるところに、面白さがあると思っています。それは、先ほどお話した「移ろい」という言葉と通じる魅力です。自分も30代の頃は、白と黒のインテリアで統一したスタイリッシュな空間が好きでしたし、コンクリートの空間にも魅力がありましたが、年齢を重ねてくると、時と共に経年変化する素材に囲まれている方が、居心地の良さを感じます。人も自然の一部ですし、その素材をどう自然に沿わせていくか、人間が知恵を絞り人の作為と自然を巧みにバランスよく調和させるものづくりが、世界に共通する「居心地の良さ」に繋がるのではないかと思います。

歴史や記憶を、未来に紡ぐ

私に作品を依頼していただくお客様の中には、長い歴史を持つお店や会社の方も多くいらっしゃいます。そういった方々の中には、この機会に古いものを全て刷新したいとおっしゃる方もいらっしゃいます。ですが、私は、「これまで受け継いできたものをぜひ大切に活かしながら新しくしていきましょう。」とお伝えするようにしています。それは私自身が、和紙という伝統工芸に身を置いて活動していることもあります。長年培われた知恵や技術、そして記憶や歴史を織り込んで未来に伝える。このことが和紙の制作、まちづくりの視点でも大切なことだと考えています。

歴史ある建築物のアーチレリー フのモチーフを和紙の文様にア レンジした例「京都府立医科大学」 ※❶

都市環境に向けての創作和紙 「キャンパスプラザ京都」 ※❷

和建築の障子をそのまま使い、和紙をモダンにアレンジした例「熊魚菴 たん熊北店 ホテルニューグランド店」 ※❶

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