デザインオンレスポンスと「良い建築」
ペリ
イーロの事務所で過ごした7年間を通して、私が彼から学んだ最も重要なことは、「スタイルからの回避」です。他の著名な建築家たちのように、イーロもその気があれば「独自のスタイル」をもち、それをどこででも用いることができたはずですが、彼はそうしませんでした。「必要とされることはそれぞれのプロジェクトで異なり、そのひとつひとつに最適解が必要である」というのがイーロの考え方で、私もこれに強く共感しています。これは私には明白なことのように思いますが、今もなお、この考え方に理解を示す建築家は少ないですね。
そのプロジェクトを取り巻くさまざまな要素に応えることで自然に形づくられるデザイン。これこそデザインオンレスポンスですね。
ペリ
画家や彫刻家がそうであるように、建築家も自身のスタイルをもつべきだと考える人が多くいますが、それは違います。画家は、白いキャンバスの上では自分の思うがまま、何を表現するのも自由です。ところが、私たちは白いキャンバス上で建築を考えることはできません。私たちには敷地や予算、そして要求される機能があり、また何よりもクライアントやそこを使う人々、近隣のことなど、多くの条件を考えなければなりません。それらを考慮しない誤解が世界中の都市に大きなダメージをもたらしてきました。建物は建築家よりも重要であり、またその建物よりも都市は重要な存在なのです。
私が考える「良い建築」とは、「良い建築家」とほとんど同義です。それは「その場所に貢献するもの」です。その場所に貢献し、その存在によってそれをさらに良くするものです。高品質で、良く機能し、そして見た目も良い。しかし、見た目の良さというのは私にとって最も優先すべき事項ではありません。建築は都市の一部に過ぎません。建築は都市の一部になってはじめて貢献する存在となるのです。
イーロ・サーリネン(右)とペリ氏 (左)
「既にあるもの」に敬意を払う
世界には多くの都市がありますが、貴方が一番好きな街はどこですか?
ペリ
私が訪れた限り、最も美しいと思うのは日本の京都とイタリアのヴェネツィアです。この2つの都市は間違いなくリストの上位に入りますね。京都は街自体というより、実は街中にある社寺が好きなのです。素晴らしい芸術作品が街中にたくさん存在することはまさに驚くばかりです。
京都のような歴史的な街に新しい建物を建てたり開発を行うとき、どのようなアプローチが必要でしょうか?
ペリ
何よりも重要なのは畏敬の念です。歴史的な街にあるものは何世紀にもわたる人々の感性と技の蓄積ですからね。例えば京都の社寺は宗教的な発想から建てたものですが、それらをつくり上げた人々の感性や物の見方、そして考え方を現代の人々が同じように踏襲することはできないのです。歴史的な街では、既にそこにある全てのものに大きな敬意を払わなければいけません。これは他の歴史的な街にも同じことが言えます。
京都やヴェネツィアのような素晴らしい街に行ってみると、誰もが自分の振る舞いまで変わるのに気づくはずです。人々をそのようにさせるものこそ、その街が長い時間を掛けて蓄積してきたものです。だから建物や開発を行うときに、その場所のこと、そして現代という時代について考えることは不可欠です。既にあるものへの敬意とそうした深い考察が、その建物やプロジェクトを都市とより深い関係で繋げるのです。そしてこの繋がりがその都市の未来のかたちを構成し、そこで家族や子孫を育む人々にも影響を与えるのです。
他者への思いやりと共感
貴方の事務所ではどのようなプロセスでデザインが生み出されているのですか?
ペリ
私たちは常に問題を把握するところからはじめます。例えばオフィス街に新しいビルを建てるようなプロジェクトでは、まず街を模型で再現して、実際にそこに簡単な模型を置いてみることで、そのビルが周囲にどのような影響を及ぼすのか、そして周囲の建物によってそのビルがどのような影響を受けるのかを推測します。そして3つか4つの全く違った提案をします。これは例えば高層タワー案と中庭のある案など、全く違うものです。
また私たちの事務所では、クライアントにもデザインプロセスに参加してもらうことがあります。クライアントは私たち建築家が参画する何年も前からそのプロジェクトに取り組んでいます。だから彼らにもデザインプロセスに関わってもらいながら、注意深く、そして丁寧に取り組めば、最後には全ての懸案が解決できます。さらにプロジェクト完成後に、その建物や開発が実際にどのような結果や影響をもたらしたのかについて検証することも非常に重要です。
例えばビルを計画したのがクライアントでも、日常的に利用するのはそのビルに勤める人だったり、そこを訪れる人であったりします。建築家はクライアントを理解するのはもちろんですが、同時にクライアントの後ろにいる本当のクライアントを理解する必要がありますね。
ペリ
もちろんそうですね。ただそれは優しさの問題です。建築はデザインプロセスの全ての段階において優しさが、自分の全ての行いに対する人としての責任感がとても重要になります。他者への思いやりと共感、と言っても良いでしょう。
ペリ氏の事務所の様子(1980年代)
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